鹿島市民文化ホール SAKURASKASHIMA CIVIC CULTURE HALL
佐賀県鹿島市納富分2643−1
設計 | 古谷誠章+NASCA |
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用途 | 集会場・観覧場 |
構造 | RC+PC+S |
規模 | 地上4 |
敷地 | 6,040.35㎡ |
延床 | 2,646.80㎡ |
竣工 | 2023.05 |
受賞 | 2018新鹿島市民会館(仮称)建設設計プロポーザル案 最優秀賞 |
751席の新市民文化ホールの計画である。同敷地に建っていた旧市民会館と市内既存の民俗資料館を統合し、新築することを求められた。補助金の関係で制定された延べ面積の上限が厳しく、ホールスペックに準じた必要諸室や民俗資料展示室を十分に確保できないことがポイントとなった。我々の提案は、交流ラウンジに代表されるいくつかの機能を適切なタイムシェアリングにより多角的に活用する事で、日常利用からイベント利用まで全ての用途に応じて十分な空間を確保することである。更には、ホワイエや通路空間を展示スペースとして活用する事で展示室単体の空間を削減しつつ、来館者が偶発的に鹿島の文化歴史に触れ合う「出会いの場」を創出することである。施設全体が劇場空間にも、資料館にもなり得る複合的でシームレスな空間を目指した。
敷地は、多良岳山系の豊かな水を象徴する中川に面し、鹿島にこれから生まれる新たなアイデンティティを形成する大きな可能性をもつ。中川をはさんだ位置にある肥前鹿島駅へと至る空間的連続性を考慮し、市街地の活性化が求められるこの地区にとって、賑わいのある市民の日常的な交流の核となり、文化活動を通じてより魅力的で豊かな「街」をつくるきっかけをつくり出す。敷地周囲に建つ生涯学習センター(298席のホールを有する)・市役所と機能の相互補完を考えた。特に関連の大きい生涯学習センターと機能連携を行う事で、コスト低減を図るだけでなく、市民同士の豊かな出会いを育み、敷地全体の相乗的な市民活動を生み出す土地利用計画とした。多方向からのアクセスが想定される動線に対しては、シームレスな正面性を持つ楕円形平面とすることで、あらゆる方向から気軽にアクセスできるようにした。旧市民会館では市民による発表会がたくさん開催され、今後ホールの利用率を高めていく上で、子どもたちや中高生、大学生など若者を中心とした音楽やダンスの発表会・コンクールなどにむしろ重点をおいたホールが重要であると考えた。プロのコンサートや演劇鑑賞と異なり、観客自らが次の発表者となり、出演後にはまた客席に戻るといった、客席と舞台を往来する人の動線を想定し、ホワイエから楽屋ゾーンへ、舞台から「もみあげ席、ギャラリー席」にループ状につながるホール内外の空間は、演者にも観客にもなり得る市民にとって、楽しくかつ効率よく使えるものとなる。ループはホール内だけでなく、ホール外にも連続し、動線に沿って民俗資料展示スペースを分散させている。
ホールは音楽利用に適したシューボックス型を基本とし、脱着可能な幕でプロセニアム・アーチを形成することで、劇場としてのプロセニアム形式と、音楽ホールとしてのオープン形式を両立させる計画とした。また、交流ラウンジを舞台と客席の多様な関係を創出する機能共有空間とし、舞台と客席の下手側を開放することで、舞台の拡張スペースとして利用することも、客席の拡張スペースとして利用することも可能にしている。また、ホール利用がないときは、この空間を小規模な第二ホールとして利用できるよう固定バトンや照明・音響の電源を確保している。
本施設は、醸造文化のまち鹿島が、市民文化を醸成するまち鹿島としての新しい顔となるよう、歴史的な鹿島の装いを纏いながら、新しい地域文化創造の拠点となる「まちの晴れ舞台」を目指す。
撮影 淺川 敏